南麻布のある広尾周辺は大使館が立ち並び、美食に精通した住人の多い国際色豊かな場所です。
日差しを和らげる巨木の立つ少し奥まった場所に「鮨よし田」があります。
左官で仕上げられた白壁がひときわ映え、佇まいは京都の町屋のようです。交差点にもかかわらず、そこだけ凛とした静けさが漂っています。
隣は言わずと知れた和食の名店が軒を連ねます。
店主は、日本の名店やアメリカの一流鮨店でも修行し、世界が好むSUSHIを体感されてきた方です。
海外では鮨や和食をワインと一緒に楽しむのが当たり前。
店主であり鮨職人である吉田様はワインにも精通しておられます。
その吉田様は最初にご来社された時から仰いました。
「ワインと合うお鮨を出したい。お店の内装は総白木の上質な高級感のある感じで。」
私どもも多くの高級鮨店をつくって参りましたが、お鮨は本来ワインと合いにくい料理。(今ではほとんどのお店でワインを置いてありますが)
それが一言目からワインと合うお鮨を出すんだ、と言われる鮨職人さんは初めてでした。
また今や王道とも言える総白木造りの内装は一流店を目指す証でもあります。
その志の高さに感激しきっといいお店にしたいと誓いました。
そこで私たちはレイアウトやオリジナリティ、を踏まえ温故知新をヒントに日本らしさを感じられる「能舞台」をデザインコンセプトとしました。
求められたのは王道の和の空間でいて、ワインに負けない華やかさでした。
お店は一枚板のカウンターを中心としたシンプルな構成です。
能舞台となるのは鮨をにぎる「つけ場」。
お客様は鮨職人の妙技をまるで能舞台を眺めるように鮨を楽しめます。
本来、能舞台は屋外にあるもの。能舞台の基本の意匠である屋根は下がり天井(格天井)で表現し、柱、梁はもちろん、能舞台の背景にある松は欄間や建具の組子の柄で表現しました。
そのこだわりは、素材にも現れています。
カウンターは檜の無垢材、あえて無塗装です。
汚れのリスクがある反面そのしっとりとした木肌は手に吸い付くような気持ちよさです。
これは担当デザイナーと店主が出向き選んだ一品材です。
他にも背景となる壁にはどっしりとした名工による檜の氷冷蔵庫が目を惹きます。
カウンターに座り、鮨を待つ間、目に入ってくるのは天井の四方に画がかれた四神です。
四神は本来能舞台にはありませんが、“場を清め、守る”という意味でこのお店のためオリジナルを当社アートディレクターとそのブレーンにより制作致しました。
お店の天井をご覧になったお客様は「江戸の蒔絵のようだ」とお話しされたそうです。
もちろん意匠性だけでなく、使い勝手にも重点を置きました。
鮨を握る職人さんにによってスタイルが変わるため、店主吉田様にとって本当に使いやすい高さや位置関係、動線、お客様との目線に配慮して設計しました。
他にも、名刺やメニューなども全て当社にご依頼いただきました。
例えば名刺は表情のある活版印刷でつくられています。
お店と同様に緊張感漂うレイアウト、紙質、インクの溜まりやかすれから独特の味わいが感じられます。
一流を求める食通たちが早くも噂を聞きつけ通っていらっしゃるようです。
ここから新たな鮨の王道が広がるのかもしれません。
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DATA
店舗情報
- 店名
- 南麻布 鮨 よし田
- 住所
- 東京都港区南麻布 5-1-2 クラウディアビル 1F
- 広さ
- 16.3坪
- 竣工
- 2019年