個店を10店舗にする方法[vol.03] 投下資本回収編1(単月黒字化を考える)
update :
さて前回の「個店を10店舗にする方法 ~売上予測の考え方~」の続きです。
(前回記事はこちら:個店を10店舗にする方法[vol.02] 売上予測の考え方編)
前回では、筆者がレストランを出店するにあたって、その店舗の売上を予測するという観点から客単価・回転率を想定し想定売上高を算出しました。
今回は筆者が前回想定した店舗の出店費用をどの様に考えるかという事に主眼を置いてお話を進めましょう。
個店を開業する目的
そもそもなぜ個店のオーナーは自分のお店を出店するのでしょうか?
人それぞれに想いや考え方があり、独立開業する事が長年の夢だった方や、今までの経験値を生かしてより世間に受け入れやすい業態を考案し、果ては大成功を目指して、長年の計画を実行に移される方などその動機は千差万別ですが、ただ一つ共通して言える事は、その開業において誰もが「成功」を望んでいるという事です。
ここで言う「成功」もまた、人それぞれですが、大前提としての「成功」とは「失敗」の逆であり少なくとも「毎月赤字の経営ではない事」と「投資資本を一定期間に回収できる事」という考え方が成立しているという条件が一般的なのではないでしょうか?
単店の経営において月々きちんと黒字を出し、投下した資本をできるだけ短いスパンで回収でき、その上で社会的に有意義だったり地域の人々に貢献できる様なビジネスモデルが、世間的に高い評価を受け、結果的に成功に繋がる事になるという事は間違いなさそうです。
売上と支出を想定してみる
それでは筆者の想定店舗もその様な店舗に近づけるべく、検討を開始してみましょう。
まずは具体的に月々きちんと黒字をだせるか?についてです。
言わずもがなですが、「月々の経営が黒字化」していなければ「投資回収」は絶対に不可能です。なぜならその様な店舗は「回収する原資(お金)を稼げていない店舗」であり、もっというと回収すべき原資(お金)を逆に流出し続ける店舗となってしまうからです。
前回は売上予測、つまり想定している店舗にどの程度の収入があるかを考えましたが、利益とは「収入」マイナス「支出」の差額となりますので、これがプラスになる様にできれば「月々の経営が黒字化」は達成できている事となります。以下は支出について考えてみます。
さて以下は主な店舗(飲食店)における支出の項目と金額の目安です。
ココでは筆者の考える「地域の人々に永く愛されるカフェレストラン(仮定)」をベースに考えて想定してみます。
※支出は月額ベース、税抜き、売上想定を\3,500,000、15坪とする
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①賃料
筆者の考えるカフェレストランは都内での出店をイメージしております。
具体的なイメージは清澄白川や蔵前などのベイエリア・リバーサイドエリアの駅やや近め。
坪単価は¥23,000のイメージ(共益費込み)
〈¥345,000〉
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②人件費
ネットなどの飲食店開業にまつわるサイトを検索すると、御多分に漏れず『「材料費」(フードコスト)+「人件費」(レイバーコスト)の比率(FL比率)が売上高の60%以下が望ましい』と書いてあります。
ですが筆者の経験上、大繁盛店のラーメン屋さんなどの一部の例外を除いて上記比率をクリアする事は至難の業と言えるでしょう。
その背景には飲食店競争の激化や中食と呼ばれる、コンビニやスーパーの台頭等様々な要因がありますが、一概に言えば『気真面目にお客様に喜んでもらえるお店を目指せば、低原価率や低人件費はコストパフォーマンスやサービスの質の低下に直結する』ので上記の目安は無視することにします。
ココでは筆者の経験上、人件費は33%と想定します。
〈¥1,155,000〉
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③材料費
筆者の目指す「地域の人々に永く愛されるカフェレストラン(仮定)」は「おいしいものをできるだけお手頃に」にモットーに運営していきたいと思っております。
この理念から、上記目安は無視して材料費は一般的よりやや高め35%と設定します。
〈¥1,225,000〉
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④その他経費
賃料に加えて、FLコストが店舗における主な支出(厳密に言うと賃料は固定経費、FLコストは変動経費という違いがありますが)となりますが、上記以外にも店舗を運営維持していくためには、必要な経費が発生します。
筆者の想定店舗では、出来得る限り事前に想定しておくべき経費は細かく考慮しておきたいので以下の様な経費を計上する事とします。
・消耗品費
・アルバイト募集広告費
・カード手数料
・広告宣伝費
・水光熱費
・清掃費
・雑費
カード手数料などは事前の想定に組み込まない方もいらっしゃいますが、筆者の想定店舗ではその利用率は25%(4組に1組のカード利用頻度)と低い設定にしているにもかかわらず月の総額で言うと、月の売上に対して1%ほどの比率となり、無視できない数値となりますので例えばもっと客単価が高い業態などでは、ココで設定しているよりも、更に自然と利用率が高まりますので、注意しておいた方が良いでしょう。
また飲食店舗は労働力の確保が非常に重要です。
例えばオーナーと奥様以外のスタッフを必要としない運営形態であれば問題ありませんが、一部でもアルバイトスタッフの必要がある場合は月々の募集広告費も決して馬鹿にできないコストとなってきます。
筆者の想定店舗では筆者の経験値に基づき上記諸経費を合算して、売上高の8.5%を想定します。
〈¥297,500〉
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さてこれで筆者の想定店舗「地域の人々に永く愛されるカフェレストラン(仮定)」を運営していくにあたり、月々の支出額が算出できた訳です。
上記〈〉内の数字を合計すると、¥3,022,500となり、「売上高」>「支出」の構図が完成でき、(計画上)単月での黒字化が達成できています。
店舗の金庫には毎月¥500,000弱のキャッシュが残る計算となり、ここから初期投資分を返済(回収)していくという考え方になります。
纏めると、筆者の想定店舗は原価率、人件費率とも所謂ネットで散見される、望まれる数値よりも高い数値で設定しました。(但し上記FL比率68%という数値にしても実際には高めのハードル設定です。)
また賃料に関しても、特段安い設定という訳でもありません。
カード手数料・募集広告費・広告宣伝費などの見落としがちな経費も想定しました。
それでも単月黒字化は達成できます。
なぜでしょうか?
ピンときた方もいらっしゃるかも知れませんが、上記の設定には「初期投資の返済(回収)分」が考慮されていません。
先に「店舗の金庫には毎月¥500,000弱のキャッシュが残る計算となり、ここから初期投資分を返済(回収)していくという考え方になります」と記述しましたが、ここではまだ初期投資をどの位にして、月々幾ら返済(回収)して、何年で投資回収するかという部分が欠落しているのです。
ですが安心してください。
ちゃんと計算してあります。
実はこの想定店舗、内外装設備工事として¥12,000,000と厨房機器費用として¥3,000,000を計上しています。
さらには、開業前に掛かる以下の費用
・厨房備品費、食器購入費、事務機器購入費、ユニフォーム代、ディスプレイ費、予備費
・物件取得費(保証金)
・開業前賃料(1か月分)
・開業前経費(食材費・広告費・募集費)も考慮して
その投下資本合計額を4年で回収できる様な試算になっているのです。
次回「個店を10店にする方法」では、この時の筆者の初期投資金額設定の考え方などを投資回収年を踏まえてお話してみようと思います。
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「個店を10店舗にする方法」シリーズ
個店を10店舗にする方法[vol.01] 物件の選び方と家賃編
個店を10店舗にする方法[vol.02] 売上予測の考え方編
個店を10店舗にする方法[vol.03] 投下資本回収編1(単月黒字化を考える)
個店を10店舗にする方法[vol.04] 投下資本回収編2(投資回収年度を考える)
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