個店エフェクト|日本の食文化承継にかける思いを店舗デザインに託して
update :

鉄板と炭 Soil
割烹 築地 㐂やま
株式会社FEED 代表 松田朝子様
「株式会社FEED」の代表・松田朝子さんは、これまでに7軒の飲食店をオープンさせてきました。そのうち2023年9月開店の鉄板焼きと炭火焼きの「Soil(ソイル)」と隣接する日本牡蠣の無人販売店「Japan Oystar」、2024年11月開店の「割烹 築地 㐂やま」、計3店舗をクロノバデザインにご依頼いただいています。
ひとつの業態のお店を多店舗展開するのではなく、オイスターバー、焼き鳥店、鉄板焼き、日本料理……と次々に新たな業態の個店に挑戦し続けるのが松田さん流。その中で、クロノバデザインの店舗デザインを気に入っていただき、まったくタイプの異なるお店づくりにおいてもご縁がつながることとなりました。
そこで、クロノバデザインとの出会いから飲食店にかける思いなどを伺いました。クラウドファンディングを成功させる工夫のお話しなども飛び出し、「これから個店を出したい」と考えている多くの方に、きっと参考になるはずです。
INDEX
1.数十億の不動産を扱う仕事から、1杯1,000円のワインを売る世界へ
2.「居抜き」の失敗で知った、店舗デザインの大切さ
3.自分の希望とはまったく違うクロノバデザインの店舗デザインに、社員全員「コレ!」と即決
4.「Soil」のデザインと施工、その気に入ったポイントとは…?
5.食の文化や技術を承継したい!日本料理「㐂やま」にかける思い
6.クラウドファンディングで過去最高の数字を達成!その秘訣とは?
7.「ゼロイチが好き」── これからも続く挑戦
数十億の不動産を扱う仕事から、1杯1,000円のワインを売る世界へ
─ 松田さんは焼き鳥店やオイスターバーなどいろいろな飲食店を経営なさってきたそうですね。
はい、ちょうど今年(2025年)の2月14日で、最初のお店をオープンしてから18年目を迎えました。
その前は、不動産デベロッパーの代表をしていましたが、あまり性に合わなかったので経営から抜けて、飲食業の会社を作ったんです。
─ なぜ不動産から、畑違いの飲食店に転向されたんですか?
ひとつには、病気の母を抱えていて面倒をみたかったので、それには独立するしか方法がなかったというのが大きくありました。あとはやっぱり、食べることがすごく好きだったんですよね。
それで飲食店に魅力を感じていました。
不動産の場合は、動く金額は大きいけれど、そんなに何回もお客さんと取引するわけではないので、事務的なところがあるんです。その点飲食は、お客さんがお金を払ってくれて、「ありがとう、また来るね」って喜んでくれる。
それはすごくすてきだな、と思ったので、私は数十億円のお金が動くディベロッパーから、1杯1,000円のワインを売るほうに行きました(笑)。
─ 最初に開いたお店は何だったんですか?
はじめはこの場所(代々木のSoil)で、オイスターバーをやりました。そんなに費用がなかったので、イタリアンだったお店を居抜きで少し改装して。
不動産業をやっているときに、たまたま出会った同じ不動産業の社長が、実は日本で最初にオイスターバーをオープンした人だったんです。
それで、「お店をちょっと手伝ってくれ」と言われて、私もカキがすごく好きなので、お手伝いするようになったのがきっかけでした。
─ そこでノウハウを学んで、ご自身でもオイスターバーを開業したんですね。それから現在までは順調でしたか?
この18年で、お店を7軒やらせていただいたんです。でも中には短い期間で締めたところもあって、途中で「居抜きの難しさ」に気付かされました。
「居抜き」の失敗で知った、店舗デザインの大切さ
─ 「居抜きの難しさ」とは、どういうことですか?
費用の面では、居抜きっていうのはありがたいと思うんですが、やはりコンセプトがいまひとつ定まりづらいというか、高級感や居心地のよさを出すのがなかなか難しい部分があったんじゃないかと思います。
たとえば、ここでオイスターバーをやったあと、そのときの店長から「何か酒場みたいな店を、自分に任せてやらせてほしい」と言われたんです。
それで、(オイスターバーの)居抜きでちょい飲みの酒場に変えたんですが、開店半年でものすごくお金が出ていっちゃったんですね。
浅はかな気持ちで社員を信じてやったんですけれど、やっぱり居抜きでもコンセプトを明確にして、ある程度内装をしっかりやらないと、ターゲットのお客さんが来てくれない、ということをすごく感じました。
─ そこで店舗デザインの大切さに気付いたんですね。そのお店はどうしたんですか?
どうにもならなくなって、隠れ家的な焼き鳥屋にしてがんばりました。
でもやはり、コロナの問題と人(=料理人)の問題が生じてしまって、いま思い返すとそれが大きな分岐点でしたね。
─ というと……?
それまでは居酒屋的な、それほど技術のいらない料理を出していたんですが、コロナのときに「このままだと生き残っていけない、専門店で、(料理をする)人ありきのお店をつくろう」思って舵を切り直しました。
ちょうど焼き鳥屋の厨房設備も、居抜きで15年くらい使ってガタがきていたのもあって、それを全部直して焼き鳥屋を続けるか、あるいは全部変えるならいっそ業態を変えたほうがいいんじゃないか、という話になって。
そのときに、うちで10年くらい一緒にやっているシェフの山口が、「鉄板焼きがいいんじゃないか」と言ったんです。山口は、もともと鉄板焼き店の社員から、恵比寿のウェスティンホテル東京で鉄板焼きをやっていたもので、「鉄板と炭」というコンセプトをやろうと考えていた。それなら他のお店と差別化も図れるのではないか、ということで、業態を変える選択をコロナのときにしました。
そこから、クロノバデザインさんとの出会いにつながります。
自分の希望とはまったく違うクロノバデザインの店舗デザインに、社員全員「コレ!」と即決
─ クロノバデザインにこの「Soil」のデザインを依頼されるわけですね。ぜひその経緯を知りたいです。
最初は「店舗デザイン.COM」さんを見て、気になったデザイン事務所に何軒か行きました。私のやり方として、かならず「行って、見る」んです。
それで、クロノバデザインさん含めた3社まで絞ってデザインコンペをやっていただいたんですが、最終的に(クロノバデザインの)加治さんの「負ける気がしません」っていう言葉で決まった(笑)。そこからご縁をいただきました。
─ 「店舗デザイン.COM」さんで見たときに、クロノバデザインを「いいな」と思われたのはどんなところでしたか?
作っていらっしゃるお店に「個店」が多かったのと、デザイン性のセンスですね。それと、3社に絞ったところでそれぞれが作った物件をいくつか見に行ったり、実際にお店に入って食べたり、働いている方とお話ししたりしたんですが、(クロノバデザインには)非常にいい印象を受けました。特に、「アフターケアもすごくちゃんとしてくれるよ」と言われたのが大きかったですね。
─ デザイン事務所だけでなく、作ったお店にも「行って、見た」んですね。
はい、私はかならずそうしています。
─ それで、最終的にクロノバデザインの店舗デザイン案のどこがよかったんでしょうか?
それが、クロノバデザインさんのデザインには私の希望があんまり入っていないんです(笑)。なのに飛び抜けて良かったんですよ。私の希望を入れてくれた会社のデザインは、古臭くてぜんぜんダメだった。もうこれが不思議で!
加治さんは、コーチング力とコミュニケーション能力がめちゃくちゃ高くて、「はい、はい」って(希望を)聞いてくれるんです。だけど、私の希望はほとんど入らないデザインで、バシッと完璧なものを決めてくる。社員が見たら、全員「これ!」っていうくらい。その信頼感は「スゴいな!」って本当にびっくりしました。
─ ちなみに松田さんのご希望は、どんなお店だったんですか?
フランスの田舎にあるような、ちょっとおしゃれなレストランっていうイメージがあったんです。でも、私はデザインのプロではないので、ちょっと時代からズレがあるというか……私の要望を入れてしまうと、たぶんダサくなる。
それよりも、こちらからはお店のコンセプトだけ伝えて、デザインはプロに任せればいいんだな、と感じました。
─ 希望とは違うのにすごくいい、と感じられたのは、具体的にはどんなポイントでしたか?
たとえば、「Soil」という店名が「土壌」という意味なので、個室の壁にスポットライトを当てて、土の中から上にあがっていくイメージを作っていただいたのにはびっくりしました。入り口や個室に黒皮鉄板を使っているのもいいですよね。
それと、ここは私の希望をちょっと入れてくださったんですけど、入り口から入ってくると、正面に見えるカウンターからその上のダクトまで縦のラインがふわっと上にあがっていくように感じられるんですね。私はお客さまのご縁をつないでいく、そしてお客さまが上にあがっていくような縁起のいいお店を作りたかったので、(その希望が形になっていて)ちょっと驚きました。
─ それは、松田さんからのデザインのディテールに関するご希望には沿っていないけれど、言語化されていない本質的な要望には沿っていた、ということでしょうか……?
いま思うとたぶん、汲み取ってくださったんじゃないかな、と感じますね。やっぱり商売としての観点と、お店の機能、そして差別化を図るデザインというそれぞれの意味で、すごくいいものを作ってもらえたんじゃないかな、という気がしています。
「Soil」のデザインと施工、その気に入ったポイントとは…?
─ では、実際にできあがった「Soil」を見たときには、どう感じましたか?
こんなに素敵なお店を持ったことがないので、めちゃくちゃうれしかったです。来る人来る人がすごく褒めてくれるんですよ。
「どこのデザイン事務所に頼んだの?」とも聞かれますし。特に個室は、接待で使う方が多いんですけれど、お客さんがすごく居心地よさそうに感じます。
─ お気に入りのポイントはありますか?
カウンターがすごくいいなと思っています。鉄板焼きが真ん中にあって、サイドに生簀、反対側に炭、後ろは黒皮鉄板になっているというデザインのコントラストがすごいなと。うちのシェフも、うれしくて毎日毎日すごく掃除しています(笑)。
ちょっと話がズレますけれど、実は前にも「店舗デザイン.COM」でマッチングしたデザイン会社さんにお店づくりをお願いしたことがあって、それがクロノバデザインさんとはぜんぜんレベルが違ったんですよね。そのときは、デザインはデザイン会社でデザインコンペして、施工は施工会社で施工コンペして……というやり方だった。
でもクロノバデザインさんは、デザインから施工まで全部する。それは、デザインから施工までの責任も持つ、ってことなんですよね。
たとえば、「天井までの距離が少し設計と違うので、やり直させます」とちゃんと言ってくれる。そんなの私にはわからないんだから、「これで正しいです」って言っちゃえばいいのに(笑)、そうせずにやり直してくれるわけですよ。一貫して責任を持ってやる、そして(施工後)1年間はしっかり面倒見てくれて、何かあれば対応は早い。
細かいところだと、飲食店ってネズミとかが入ってきますよね。それも、「ここが開いていたからネズミが入ったんですよ」「今回は、全部ふさぎました」って言われてびっくりしました。実際に、いまもネズミが出ることはなくて、そういう私たちにはわからないところまで、きちんと施工してくれたので、ありがたいですよね。
─ その信頼感があったから、次にオープンした「割烹 築地 㐂やま」もまたクロノバデザインに依頼されたんですね。
はい、そこはもう、クロノバデザインさんだったら大丈夫、っていう気持ちが私の中であったので、ぜんぜん迷いなく。
食の文化や技術を承継したい! 日本料理「㐂やま」にかける思い
─ 鉄板焼きと炭火焼きの「Soil」から、短期間で本格的な日本料理の「㐂やま」をオープンしたのはなぜですか?
職人がいたからです。飲食って、どうしてもひとりの人が同じクオリティ、同じ味を提供できる人数は5〜6人程度に限られちゃうと思うんですよね。
音楽なら大きなホールで何百人に聞かせられるし、製造業は機械的に同じものができるじゃないですか。それに対して飲食は、いちばんニッチな世界というか、同じ材料を使っても同じものはできない。その料理の文化や技術を「承継したい」ってすごく思うんです。
世界の中でも、日本はいちばん料理がおいしいと思うので、その技術を承継させないと、日本人の素晴らしさが違うほうにいってしまうんじゃないか。それが目的で(飲食業を)やっているところもあります。
「㐂やま」の職人の正木とも、「もちろんちゃんと商売として成り立たせなきゃいけないけれど、その商売の先には、若い方たちに料理・調理の技術を承継していってほしい」っていう約束を最初にしました。
─ そういう思いがあったんですね……では、それを踏まえてお店を出すとなると、今度はどんなコンセプトをクロノバデザインに伝えたんでしょうか?
「㐂やま」は日本料理の王道を行くので、カウンターと個室ひとつがステージになって、余計なものを置きたくない、だから「和」のどストライクをオーダーしました。
「Soil」はイノベーティブなんですけれど、「㐂やま」の正木がやっている日本料理は、日本料理の中でも本当にとんがっていてストライクゾーンが狭い。そういうことを、正木が載った雑誌なんかをクロノバデザインさんに見せたりしてお伝えした感じです。
─ それで、やはり施工中なども「行って、見て」……?
いえ、すごく安心感があったので、築地にはほとんど行ってないんですよ。でも、ビルのとなりの部屋にも内装業者さんが入っていたみたいで、そこの人がやたらとみんなでゾロゾロ見学に来たそうです。それで、「ここがいい」とかなんとか言っていたみたい。
それと、おとなりの内装業者さんは、消防検査になかなか通らなくて、何回も何回も検査があったんですって。でもうちの「㐂やま」は一発で通って、何も問題がなかった。そういうこと一つひとつを、クロノバデザインさんがちゃんとやってくれてるんだな、と思いました。
─ ちなみに、「Soil」に隣接する「Japan Oystar」もクロノバデザインが手がけたお店で、日本牡蠣専門の無人販売店という珍しい業態ですね。
はい、私が飲食業に携わったスタートが牡蠣だったので、本当のおいしい日本牡蠣を少しでも安く食べてもらいたくて、無人販売にしています。
牡蠣は、富山と広島と東京の大田区、この3つの拠点を通ってオイスターバーに届くのが9割以上なんです。でもうちは、海域からそのまま仕入れているので、「海直活け牡蠣」って呼んでいます。私が地方に行って、山を見て川を見て海を見て生産者を見て、除菌するところまでちゃんと見ているんですけれど。
─ ここでも「行って、見る」主義ですね!
品数多く、安く販売したかったら、富山や広島、大田区からとればいいんですよ。でも、そこの水槽を見に行ったら、プールの中に北海道産も九州産も三重産も全部一緒に入ってる。しかも人工海水なので、牡蠣の味がみんな同じになっちゃうんです。
それが嫌なので、本当の海域の味で、かなり安いものを無人販売で売っています。
クラウドファンディングで過去最高の数字を達成! その秘訣とは?
─ ユニークな挑戦を次々になさっているんですね。そういえば、「Soil」をオープンする際に、「Makuake」でクラウドファンディングも行ったんですよね? それはなぜですか?
実は、(「やりませんか?」と)営業されまして、そのコンサル営業の方がすごくいい成績を挙げている方だったので、「1回やってみようか」ということでやらせていただきました。
日本のクラウドファンディングでは「Makuake」さんと「CAMPFIRE」さんが大きくて、「Makuake」さんのほうが上場していてちょっと高級志向なんです。それで、集客と広告宣伝を兼ねてやらせていただきました。一応「Makuake」さんでは、鉄板焼き店で過去最高の数字を挙げています。
─ すごいですね! しかも短期間で目標達成なさっていますよね。それには何か工夫されたことなどあったんでしょうか?
いちばんは、食材だと思います。高級志向の食材を中に盛り込みました。
それと設計。正直、クラウドファンディングでやりがちな設計ミスとして、「自分が儲かるようなしくみのクラファン」をやっちゃう方が多いんですよ。うちの場合はそこでは全然儲けるつもりはなく、広告宣伝をしたかったので、そういう設計をさせていただいた。その設計がすごく大事じゃないかな、と感じました。
─ 確かに、実際に参加された方も、「この値段で大丈夫?(=安すぎる)」みたいなご意見がありましたよね。
そうなんです、そこはすごく工夫をしたところです。
ただ、(コンサル営業の担当者からは)「内装にはお金をかけることない」って言われたんですよね。クラファンでやっている有名なお店でも、内装にはお金をかけないらしく、実際に行ってみてもやっぱりかかってないんですよ。
でも私は、それが嫌で。この内装だからこの食事でこのお皿で……って、ちゃんとマッチングできるように、そこの「身だしなみ」は、うちでは結構うるさく言ってやってます。
「ゼロイチが好き」── これからも続く挑戦
─ そんなふうに、いろいろな挑戦を続ける松田さんですが、最後に今後やってみたいことや目標があればぜひ教えてください。
「ザ・マジック」という本があって、それを元にしたカフェをやりたいんです。これは、28日間の感謝ワークの本なんですけれど、カフェに来た人の中でやりたい人だけが感謝ワークをすると、それによって不平不満から抜け出せる。
そういうカフェを作って、児童施設にいる子たちなんかがそこで2〜3年働いて、社会勉強をしながらお金を貯めて、自分のやりたいことをできるようにならないかな、っていうことをちょっと考えています。
たぶん私は「ゼロイチ(=まだ世の中にないものをつくること)」が好きなので、あくまで裏方として立ち上げて、私が引退するときにそのカフェを引き継いてくれる人がいたらいいな、って。
─ そういう「場」を作りたい、ということですね。ぜひやっていただきたいです!
そのときはまた、クロノバデザインさんにお願いします(笑)。
鉄板と炭 Soil(テッパントスミソイル)
住所:〒111-0033 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目21−6 プラザF1ビル 1階
TEL:03-6384-2057
営業時間:[第一部] 17:30〜19:30[第二部] 20:00~22:00
定休日:月曜日※祭日の場合は、営業。翌日休み。
HP:https://teppan-soil.com/
割烹 築地 㐂やま(カッポウ ツキジ キヤマ)
住所:〒104-004 東京都中央区築地6丁目24−5 301
TEL:03-6228-4388
営業時間:[月・火・水・木・金・土・祝前日・祝後日]18:00 – 23:00
定休日:日・祝日
HP:https://www.instagram.com/tsukiji_kiyama/p/DFRTLGHhR6J/
関連記事 :クロノバデザインの実績を見る