店舗デザインの基礎知識~2章~|デザイン会社の探し方からお引渡しまで。基本的な流れ8ステップ
update :
1章で店舗デザインの重要性は分かったかと思います。
ポイントは以下の4点でした。
◎店舗デザインの基礎知識~1章~|なぜ重要?見た目以上に大事な考え方4つ
1. 店舗デザインは「機能性」と「動線」をデザインする
2. 店舗デザインは「非日常」を演出する
3. 店舗デザインは「ビジネス」に直結する
4. 店舗デザインは「業者選び」ではなく「パートナー選び」
では、これを踏まえて、実際にお店を開こうとする際に、店舗の設計やデザインはどのように進めるものでしょうか?
細かい流れはケースごとに異なりますが、一般的には以下の通りです。
ひとつずつ説明していきます。
2章 目次
1. デザイン会社を選ぶ
まず、デザイン会社を選びます。
デザイン会社を探す方法は、インターネットで「店舗デザイン 東京(地名)」などのキーワードでホームページ(HP)を検索することが主流ですが、最近はSNS媒体から依頼するケースも増えています。
たとえばinstagramやPinterestなどで、「#店舗デザイン」と検索したり、開業したい業種で検索(「居酒屋」「美容室」など)したりして、気に入った店舗写真があればそのデザイン会社を調べるといいでしょう。
また、店舗デザイン会社のマッチングサイトなどもありますが、いずれの方法で探す場合も、デザイン会社のHPを必ずチェックして、実績や会社の考えを確認しましょう。
数ある会社から選ぶのは大変なように感じますが、HPを読み込むと意外と数社に絞れるものです。あまり多く選んでしまうと、大事なパートナーと呼べるような企業と出会う前に疲れてしまいます。本番はその1社と理想のお店をつくることですから、あくまで本命、対抗、穴というように目星を付けて、3社、多くても5社くらいから絞り込むといいようです。
実際の打ち合わせをする際には、物件の図面、コンセプトの書かれた事業計画メモ、イメージ写真などがあればベストですが、なくてもかまいません。物件が決まっていなくてもOKです。
そのときは、相手の会社に訪問してその雰囲気を感じながら面談してください。何となく、信頼感や、感性、ノウハウなどが垣間見えるでしょう。この時点で2社、多くても3社以内に絞れるはずです。
2. 物件を探す
デザイン会社探しと並行して、店舗の物件を探します。
物件を先に決めてからデザイン会社に依頼してもいいのですが、できれば物件を契約する前に、デザイン会社に相談してください。というのも、物件によっては構造的に理想通りの店舗づくりができない場合があるからです。
ベストな進め方としては、デザイン会社に相談しながら物件を探し、よさそうなものが見つかったらデザイナーと施工担当と一緒に内見に行きましょう。その上で、オーナー様側の条件に合致していて、デザイン会社も目指す店舗がつくれると確認できた物件を契約するといいでしょう。
3. コンセプトを決める
次にすべきなのは、「コンセプトを決める」ことで、これは非常に重要です。
「お店を経営すること」とは、「コンセプトを決め、それを見直し続けていくこと」だと言えるかもしれません。それだけコンセプトとは事業の核となるものなのです。
ここではまず「なにをしたいのか」、「それによってなにを得たいのか」を自問自答します。そしてそれを、他者(パートナー)と話し合います。
近親者から始めて、第3者にその問いの対象者を広げていくといいでしょう。
コンセプトの立て方については、3章1. コンセプトを明確にするで説明しますので、そちらも参照してください。
4. デザインと見積りを依頼する
コンセプトが決まったら、選定した3〜5社のデザイン会社へ、デザインと見積りを依頼します。
「公平に選びたい」との思いから各社に同じ条件、同じ気持ちで平等な条件を提示する方も多いようですが、これは公共事業ならいざ知らず、一般的な店舗デザインにとっては最善な方法とは言えません。事業規模や組織、ご自分の性格などを勘案して、以下のいずれかの方法で決めるといいでしょう。
◎「企業対企業としてのプロジェクトであり、ビジネスライクな付き合いがよい」と考える場合
予算が多いプロジェクトに向いている方法です。
・各社に同じ条件、同じ気持ちで平等な条件を提示する。
・予算や工期、支払い条件などを最初から明確に提示する。
〈メリット〉
公平性。競争心を煽ることでよいものを安くすることもできる可能性あり。
〈デメリット〉
クールすぎて相手からもクールに対応される恐れあり。
◎「せっかくだから、お店をつくる過程も楽しみたい」と考える場合
一般的なお店で予算3000万円未満の案件であれば、こちらの方が一般的です。
・面談後、パートナーとなるデザイン会社の目星を付けながらデザインや見積りの依頼を行う。
〈メリット〉
本命には「本命であること」を伝えて他を抑えとすることで、保険を掛けながら本命の気持ちや心意気を引き出せる。漠然と頼むより、目星を付けていることで機敏のあるやり取りができて「お店をつくる喜び」「チーム感」を感じやすく楽しい。
〈デメリット〉
本命が油断して甘い仕事になってしまう恐れあり。オーナー様の眼力で見極めが必要がある。
【プロ視点でのアドバイス】
この時点で、「デザインはスムーズに進むのに、見積りの提出がデザイン提出よりも1週間も遅れる」ということがあります。
これは、「価格の決定力(=商品やサービスの価格を自社主導で決めることができる力)が弱い会社かもしれない」ということを示唆しています。
たとえば以下のような流れで考えてみましょう。
①デザインは社内で作成
↓
②そこから施工業者に見積り依頼
↓
③それをまとめて利益を乗せた見積書を作成
↓
④オーナー様へ提示
このスキームの価格決定権は、②にあります。施工業者が見積りを高く出してくれば、費用は高くなってしまいます。さらに、工事途中でも施工業者が追加費用が必要と言えば、それを提示されるリスクもあります。
こういったことを防ぐために、クロノバデザインでは、以下のような見積りの作成を行います。
1)デザインを社内で作成しつつ、並行して見積り(=店舗づくりにかかる全費用の合算)も社内で行う
2)デザインと同時、ないしは少し遅れるくらいで見積りを提示
3)施主と打ち合わせを行うことと並行して、施工業者各社と予算内で行えるか交渉
4)この段階で合意の取れた施工業者にしか依頼しない
という流れですので、完全に価格の決定権は当社にあり、オーナー様に迷惑を掛けることはありません。
これは当たり前のようですが、実は非常に難しいことです。
社内に多くの施工ノウハウと適正価格の情報、デザインをコントロールする力が必要で、かなりの経験が蓄積されていなければできません。そのため、このスキームを実現している会社は、大手ゼネコンを含めてもごく少数しかないのです。
ご興味のある方は、ぜひクロノバデザインにご相談ください。
5. 設計管理契約を締結する
依頼したデザインや見積りについて何回かの打ち合わせを経たのちに、もっとも優れていたデザイン会社1社を選んで契約をします。
デザインだけを行う設計事務所であれば「設計契約」、施工会社とは「工事契約」を別々に結び、設計と施工をあわせて請負う会社であれば、「設計施工請負契約」を結ぶ、というように、契約形態に違いがあります。
大きなプロジェクト(工事期間が1ヶ月以上で、費用は数千万円以上など)であれば、設計施工を分離した方がいいこともありますが、そうでない場合は設計と施工が一緒に行えるデザイン会社かおすすめです。
なぜなら店舗デザインは、通常2〜3か月という大変な短期間で契約から工事完了まで進みますので、一気通貫で責任をもってできる会社の方がオーナー様の負担は小さいからです。また、費用面においても、リスク回避の点からもその方がメリットが大きいです。
というのも、設計と施工が分かれている場合は、それぞれに経費を含めた費用が発生します。一方、設計・施工を1社に依頼することで、経費は1社分ですみます。合計金額を比較すると、後者のほうが少なくとも設計費用分くらいは安く抑えられるのです。
また、設計と施工が分かれていると、それぞれにトラブルが発生するリスクがありますが、1社にまとまっていれば、トラブル対応も1社と打ち合わせればいいという利点もあります。
ただ、設計施工請負いのスタイルを謳う会社であっても、実際は「デザインだけで施工は外部に丸投げ」であったり、その逆であったりという会社も多く存在します。そういった会社は組織が脆弱であることが多く、見極めが必要です。
アフターフォローも含めた長い付き合いを考えると、どういった基盤を持った会社なのかをよく吟味することを強くおすすめします。見落としがちなことですが、表層的なデザインだけでなく、現場を知るスタッフが多くいる会社を選ぶことは、かなり重要なことです。
※クロノバデザインも設計施工の請負契約が原則というスタイルです。
さまざまな経験の中で上記のような思考に至り、そのワークフローが確立しました。
6. 実施設計
契約を結んだら、次は「実施設計」です。
というのも、契約前に描かれた図面は、あくまでたたき台にすぎません。
実際に現場で空間をデザインするためには、さらに詳細な設計が必要です。
一般にデザインと呼ばれるものは、正確には「意匠図」といい、その他「施工図」「設備図」「展開図」「詳細図」など案件に応じてさまざまな図面を作成します。他にも、消防提出用の書類の作成なども必須ですし、また商業施設などでは内装監理室の要求に合わせたさらに専門的な資料の提出が求められます。
工事着工中も、具体的な素材や寸法についての打ち合わせも何度も行います。
※クロノバデザインはお店づくりを30年弱、数千件に渡って行っていますが、こんなに面白い仕事はありません。
オーナーの視点から見ても、せっかくの機会ですし、大変な投資となりますので、本当に納得のいくお店を楽しみながら「つくる喜び」を存分に味わっていただきたいと思います。
7. 着工
設計ができたら、いよいよ着工です。
契約後は、1~2週間後に着工となることが多いです。店舗は賃貸契約を結んだら家賃が発生しますから、一刻も早く着工してほしいというのが人情というものでしょう。
しかし、あまり慌ただしいスケジュールはトラブルの元です。しっかりと設計図、見積書、工程表などを確認して着工しましょう。
「着工したら、オーナー様はもうやることがない」というわけではありません。むしろここからやることが盛りだくさんです。
詳細な図面と寸法の確認、仕上げ材の確認、器具類の確認、色合いの調整、墨だし確認(壁や床などに設計図通りの線をつける「墨だし」が正しくできているかを確認する事)などなど、工事が進むからこそ実感として分かることもありますので、最後までしっかりお店づくりを楽しんでください。
もっとも、オーナーとしては、それ以外の準備、たとえば商品の仕入れ、人手の確保、役所への申請など、他にもやることがいっぱいですからそんな余裕もないかもしれません。
だからこそ、ここまでのパートナー業者=デザイン会社選びとコミュニケーションが大事なのです。
安心して任せられるパートナーを早めにを見つけてください。
8. 引き渡し
店舗が竣工したら、最後に引渡しを受けます。
工事期間は規模にもよりますが、一つのお店をつくるのに1か月前後で、住宅が数か月かかるのと比べてかなり短期間で完成します。しかもその工事期間のほとんどは下地工事なので、初めてお店を出す方にとっては、なんとも実感が湧かずに驚かれることでしょう。
しかし最後の1週間は、みるみるお店ができていきますので、その間はしっかり現場にも顔を出してチェックを行うことをおすすめします。とはいえ、現場は大忙しですので、確認はお昼時の休憩中などにするといいかもしれません。
最終引渡しは、担当者と同時にチェックを行います。複雑なお店づくりを短期間で行いますので、一つの問題もないということは稀です。どこが問題かをよくお互いに確認し、いつまでに修正可能かを約束事として書面などでチェックしましょう。
─── 2章はここまでです。 少し長かったかと思いますが、実践的な内容ですので店舗デザインを依頼する際にはぜひ参考にしてください。
さて次回は、このテーマの最終回です。
店舗デザインを成功に導くために、どんな点に留意すればいいか、そのポイントをお伝えします。
◎店舗デザインの基礎知識~3章~|これだけは押さえたい!店舗デザインの基本ポイント5つ
1. コンセプトを明確にする
2. 「デザイン」と「機能」のバランスを考える
3. 「ファサード〜アプローチ〜エントランス」がいいお店をつくる
4. 照明と素材でお店の格が決まる
5. 換気と空調が「居心地のよさ」をつくる
また、これらのポイントを押さえてデザインされた店舗の実例も紹介しますので、最終章の3章もぜひ最後までご覧ください。