実例を踏まえてプロが解説!店舗のファサードはなぜ重要なのか?
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「ファサード」とは?
ファサードとは、広く建築・設計業界では頻繁に使われる言葉で「正面外観」の意味です。フランス語のfaçadeが語源です。英語においてはfaceが同義となります。建築において直感的に「カッコいい建物」とは、ファサードがカッコいいと同義語であるので非常に重要視されていいます。またその建築物だけでなくいわゆる街並みにも影響を与えることからも重要視されます。当然店舗デザインにおいても最重要デザインとなります。
店舗におけるファサードの重要性
店舗においてファサードの役割は、そのお店らしさを一瞬で伝えることです。
私たちはデザインを検討する際にファサードを「コンセプトの表出化」として位置づけております。
重要な理由①
<路面店では特に重要>
特に路面店におけるファサードの重要性は非常に高くなります。一部飲食店においては隠れ家的なお店というジャンルがあるものの、一般的には「入りやすさ」が店舗成功の第一歩である限り、壁やガラスを超えて誘い込むことは店舗デザイナーとしての腕の見せ所と言えます。
重要な理由➁
<チェーン店との対比と共通点>
そこでチェーン店の対極にある個店という視点からもファサードの重要性について説明いたします。ご存知のように個店はチェーン店ぽくないことによりそのアイデンティティは保たれます。かといって入りにくいお店では立ち行かないわけです。よって個性的でありなおかつ入りやすいということがデザインのポイントとなります。
重要な理由③
ファサードはブランドの顔である。ということができます。
これは特に、物販店などではその要素の方が大きいでしょう。
私たちは色んなメディアの広告で繰り返し見せられることでそのブランドを認知していきます。その広告塔の役割がブランドショップにおけるファサードです。
そのファサードには、そのお店のコンセプト、ブランドの全てが詰まっていると言ってもいいでしょう。
流行る店舗が満たしているファサードの条件
①入りやすい
②あえて、入りにくい
➂一見して、何の店かが分かる、いくらお金がかかりそうか分かる
④ファサードと内装、商品と接客、すべての要素が調和している
①入りやすい
入りやすいこと。上記で示してきたように入りやすいお店であることが店舗づくりの原則です。大手チェーン店をご覧いただければわかるように、ファサードの1階であること、間口が広い、もしくは目立つ立地であること、一目でそのお店とわかるファサードであること、自動ドアが多いことなど、チェーン店のファサードはその入りやすさをとことん追求したお店となっているのです。個店と言えどもリスクを極力減らすためにも、立地も含めて入りやすい場所で入りやすいファサードが基本です。
➁あえて、入りにくい
逆に入りにくいことがいいお店もあります。常連だけを相手にした高級なお店、飲食店であれば鮨店や料亭、フレンチレストラン、バー、ブランドショップなどですが、客数が少なく、客単価、利益率が高い、開業前から常連客を持っているなど、条件が限られますので安易に採用せず慎重に検討が必要です。大変失礼ながら、個店出店者は往々にして、いいものを出していればお客は必ず来てくれると思う方が多いのですが、その戦略はリスクが高いということも検討する必要があります。
③一見して、何の店かが分かる。一見して、いくらお金がかかりそうか分かる。
一見して、何の店かが分かる。一見していくらお金がかかりそうか分かる。当たり前のことですが、お店づくりにのめり込んでいると意外に迷いがち。個性にこだわりオリジナリティを求めた結果、何のお店かわからないということになることも少なくありません。これは店名やロゴなどにも現れます。「コンセプトは何なのか?」何度もそこに立ち返り検討することが重要です。そのためにも適切なパートナーを持ち、コンセプト立案について意見し合える客観的な視点が大切です。
また一見してお金がいくらかかりそうか、それが入りやすさ(入りにくさ)を決めるとも言えます。またその感覚的なずれが少ないことで入店後や、退店後の満足度に直結します。
④ファサードと内装、商品と接客、すべての要素が調和している
入口入って→店内滞在→接客→飲食または買い物(時々トイレ)→支払→退店という流れの全てが調和していて心地いいと感じてもらうことが大事です。だから再び訪れる、だから人に伝えたくなる、という好循環に繋がっていきます。また、ロゴやカトラリーやパッケージなどお店の中だけでなく外に対しても調和が必要となります。特に飲食店においては、人がもっとも大事な要素です。店主、スタッフ、お客様のいずれもが調和していなければなりません。ファサードを考えることはお店全体を考えることになります。
業種別 ファサードの考え方の基本
以上述べてきたように、
ファサードの基本は、入りやすく何のお店か分かること。
その基本があるから、あえて入りにくいお店もある。
よってお店のコンセプトを明確にし、それに沿ってファサードの在り方を考えることになります。
カフェ のファサードに対する考え方
カフェにおけるファサードの在り方を考えてみます。
あらゆるお店の中でもカフェという業態は、「空間」と「時間」を売るお店だと言えます。よって上記で示してきたような要素を踏まえてお店づくりをしなければなりません。特に個店においてはオーナーのセンスが問われます。実際にデザインを行うのはデザイナーであってもそのセンスはオーナーのものですから。そのセンスが外からでも感じられるような、センスが外にはみ出したようなデザインにするのが大切です。
NIJIYA CAFE(ニジヤカフェ)
個店系カフェの象徴のようなお店としてNIJIYA CAFEをご紹介します。
アートやカフェ文化で注目されている清澄白河の隣の駅に位置する住吉に手作りスイーツやこだわりのコーヒーが楽しめるカフェをつくりたい。というのがご依頼内容でした。オーナーは子供の頃から住吉に暮らす方。
元々下町的な存在だった清澄白河の街がカフェをきっかけにカルチャーの発信地として発展する姿を見て、住吉にも地域の方が自慢したくなるようなオシャレなカフェをつくりたいという思いをお持ちでした。
目の前にはスーパー、周りは木造アパート、そんなほっこりした温かみのある街だからこそ、むしろ無機質でシンプルなお店にしたい。というオーナーの強い要望をそのままデザインコンセプトとし、木造の建物ながらコンクリート調の仕上げをベースにすることで都会的なデザインに。バランスするように手に触れるところは古材や無垢材を多用し温かみのある光で包みました。
温かみとスタイリッシュさが同居し、オーナーや地元の方に長く愛されるお店になったと思います。
SABU&EGG
プロダクトあり気で始まるお店もあります。
韓国グルメの「エッグサンド」。
「SABU & EGG」はその専門店です。
店舗デザインで意識したのは「インスタ映え」。
韓国グルメは流行りものなので、トレンドに敏感な顧客層をターゲットと考えました。
狭くて長細い物件は居抜きでしたから、デザインできる点は大きくファサードと壁面。
ファサードは小さな屋台のようにデザインしました。イメージカラーの黄色で目を引くようにしながら、本物のフライパンを使った店舗サインやストライプの日よけテントなどで、できたての料理がすぐでるようなライブ感を演出。
店内はストリート感ある落書きのようなグラフィックアートで演出しました。
流行り系は、インパクトで勝負です。
現場喫茶
変わり種のカフェ「現場喫茶」をご紹介します。
ファサードは構造用合板がむき出し。
テント生地のひさしの下に、控えめなフォントで「現場喫茶」と書かれていなければ、「まだ建築中のお店かな?」と勘違いする人もいそうです。
実はここ、隣接する防水工事・外壁塗装工事会社がショールームを兼ねて運営するカフェなのです。
「施工の打ち合わせができる場所でありながら、地元の人が気軽に集まれるカフェにもしたい」
「コンセプトは、工事現場のイメージ」
このように、入りやすさ以上に、何これ?という違和感をつくるのもファサードデザインのテクニックです。
チェーン店の出店場所は、一等地、不特定多数の人が沢山行き来する誰が見てもいい場所です。だからこそ入りやすさが大事。家賃も高いので沢山の人に入ってもらわないといけません。
それとの対比に個店は、2等地、3等地と言われるようないわゆる路地裏のような場所になります。そこでは決まった住民たちが行き来するだけの道であったりわざわざ人がきてくれなければならない道であったりするわけです。ですからそのファサードの在り方も変わってきます。1,2度通った時には通り過ぎていても、いつか入ってみたいと思わせるような印象さえ残せば成功です。それを狙ったファサードがまさにこれです。
ショップ・物販店 のファサードに対する考え方
ブランドのアイデンティティを表す「顔」
私たちの事務所は、渋谷と原宿を繋ぐキャットストリートの入口に当たる部分にあります。よって周りの環境は、あらゆる最先端のアパレルブランドがその1階部分に出店しています。その家賃は大変高く飲食店は採算が取れないため出店できないほどです。(ちなみに当社は小規模オフィスビルで空中階なのでそんなことはありませんが、、)それでも出店する理由は「ブランドの価値向上」を狙ったものです。それで大成功を収めた好例がフリースを発売した当時のユニクロでありその後の大躍進に繋がりました。
ショップ・物販店におけるファサードはブランドのロゴのような役割も果たします。
DULTON FACTORY SERVICE 大宮
更地に建築から造った事例からDULTONさんの大宮店をご紹介を致します。
「HEAVY DUTY」 これがダルトンの商品コンセプト。「頑丈」ということです。
そんなコンセプトをガツンと分かりやすく伝えるファサードをデザインしました。
そして今回のデザインコンセプトは、「DULTON’s Park」。
大宮という郊外で、産業道路のロードサイドに位置するため、敷地全体を公園のように捉えて、人が集まれる場所にしたかったのです。
ロードサイド店では、車で移動する方がスーと引き込まれるようなそんな分かりやすくてインパクトのあるデザインが必要です。そしてそれはダルトンらしくなければならない。サインにも工夫を凝らしました。
また敷地内は公園のように、外部テラスと内部をシームレスに行き来するような建築でなければなりません。
オープン後、毎日沢山の車が次々に入っていく姿を目にしてこのプロジェクトの成功に安堵しました。
Made in ピエール・エルメ 那覇空港
世界的で最も著名なパティシエであるピール・エルメさんのセレクトショップをご紹介します。当社ではすでに4店舗をデザインしました。
もともと「ピエール・エルメ」様には明確なCI(コーポレート・アイデンティティ)があり、弊社でもそれに沿って店舗デザインを展開していますが、今回はその中でももっとも大胆なアレンジを施した店舗だと言えるでしょう。
今回のお店は那覇空港店。沖縄ということで海をイメージしています。また、ファサードから見ると、天井から波型のパネルが幾重にもかさなって下がっていますが、手前を短く、奥にいくにしたがって少しずつ長くカットすることでパースがかかり、奥行を広く見せる効果を狙っています。
ポイントは、パネルの間に仕込んだ関節照明。
店内を海の中に見立てて、あたかも頭上の波の間から太陽の光が差し込んでくるかのような空間を演出しました。
Made in ピエール・エルメ 那覇空港の設計・内装・デザインはこちら >
ベーカリー(パン屋) のファサードに対する考え方
ベーカリーのファサードは、味が想像できるようにデザインします。
パリパリ、ふわふわ、カリカリ、香ばしい、素材感を活かした、、、、など。
このように皆さん好きなパン屋さんが一つはあり、そのパンの表現は様々だと思います。
そのパンの特徴はそのままその店主の特徴であり、そのお店の特徴であると言えます。
パン屋さんは、幸せをつくるお店と言われる一方、悪魔の仕事とも言われるくらい朝早くから夜遅くまで睡眠時間を削ってパンをつくってくださいます。そして投資額も非常に大きい業態。
まさに人生を掛けたお店となるのです。
ベーカリー・パン屋さんのデザインは、失敗が許されない大事な仕事。そう思っていつも取り組んでいます。
Chouette
京成幕張駅ロータリーの目の前の静かな住宅街にできた「Chouette(シュエット)」さんのご紹介です。
新築の1階につくられたとても素敵なパン屋さんです。
パン屋さんは、先ほど書いたように朝早くから夜遅くまでパン作りに没頭するお仕事ですので住宅と併設(ないし近接)するのが多くのパン屋さんの願いでもあります。
そんな夢を実現されたお店です。
お店で焼かれたパンのように、おしゃれで素材感が溢れていて温かみと思いやりの溢れたお店。
ファサードは、真っ白な壁にアイアンの黒と古材の建具が映え、北欧を思わせるデザインです。
壁は左官仕上げです。
左官で仕上げることで、風合いが生まれ、耐久性が高くなります。
アイアンフレームの窓とアメリカンパインの古材の大きな引戸は開口を大きく設けているので、通りがかる人はつい店内を気になるようにしました。
看板は以前のお店のものを使い、Chouetteの世界観を活かした看板に作り替えました。
Chouetteとはフクロウ、素敵、という意味があるそうです。
オープンまもなくコロナ禍となりましたが、益々盛況とのことです。
PATISSERIE LIVRAISON(パティスリー リブレゾン)
国分寺駅からほど近く。
にぎやかな繁華街の中に、開口の大きな建具とナチュラルな木を用い、親しみを感じさせる「PATISSERIE LIVRAISON(パティスリー リブレゾン)」があります。
窓には絵本の中から出てきたような、お店のキャラクターのネズミとリスがさりげなく。
「おいしいお菓子があるよ」と呼びかけられているようで、小さいお子さん連れも入りやすい雰囲気です。
細部や厨房に至るまでこだわりにこだわったお店です。
完璧な清潔感と合理性を求められた厨房とは対比するようにファサードから店内販売スペースは徹底してナチュラルに温かく。
ここでもオーナーの考えがお店に反映されています。
本物の木材と左官でデコレーションされたケーキのような温かくて素朴なそしてファンタジーなパティスリーです。
TAMAGO COCCO(たまごこっこ)
個店は個人店というわけではありません。
大手の企業から依頼される個店もあります。
JA全農さんのプロジェクトで「しんたまご」という美味しい卵を使ったスイーツをつくるスイーツショップ、TAMAGO COCCO(たまごこっこ)さんです。
最初にいくつものパティスリーの方向性を示し、施主と色んな議論を重ねる中から決められたデザインコンセプトは、まるで研究所=laboratoryのようなお店、というものでした。
無機質なファクトリー感をベースにし、そこに卵のような柔らかな曲線のディテールデザインを配していきます。
パティスリーのデザインに求められるのは、スイーツが主役であり続けること。
空間デザインはその邪魔にならないように引き立て役になることです。
立地も住宅地であることから、ファサードでも入りやすいということ以上に気になる存在となるようデザインしました。
ガラス越しに見る店内のショーケースで見える可愛いスイーツ、そしてパティシエが働くファクトリー。
建具はできるだけ店内が見通せるようにガラス面を大きく、開放感をもたせました。卵をイメージした建具のラウンド型のハンドルはオーク製の特注でファサードのアクセントです。
長く営業すればするほどお客様が増えていくような、さりげないかっこよさを持ったお店です。
クロノバデザインのファサードデザインの特徴
ファサードのデザインと言っても一口にまとめることはできません。
なぜならそれぞれのお店、ブランドが「違うこと」が最も大事でありその「差異化」こそがデザインの役割だからです。ですからすべてのお店のデザインが違います。
また私たちは、セオリーよりも「そのお店らしさを分かりやすく伝えること」を最も重視しています。
そのお店の良さを伝えるということは、他者との違いを分かりやすく伝えることです。
そして当社のデザイン手法として、内装からファサードのデザインを行ったり来たりする思考を繰り返しながら全体のデザインを完成させていきます。それは調和を重視するからです。
「みんな違ってみんないい=差異化」
「人、モノ、雰囲気、ブランド、お金、、あらゆる要素の調和」
これらの”顔”としてのファサードという位置づけがクロノバデザインのファサードデザインということができると思います。
店舗のファサードについてのまとめ
繰り返し述べてきたように店舗のファサードとは、「顔」です。
それは、商品のこだわりや価格やブランド、時には店主の人柄など、そのお店のお店らしさが外に表出したデザインであると言えます。