空間デザインのプロが教える美容室・ヘアサロンの照明ポイント【事例あり】
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“映える時代”。これからの光のデザインはますます多様性の時代に入ります。今まさに最新のLEDの進化が始まっており今までにないヘアサロンの空間づくりができる可能性が広がっているのです。
空間デザインの要素は4つに分解できます。
形、素材、光、色、です。
(各要素の解説は「要素に分けて空間をイメージ。空間デザイン4要素」をご覧ください。)
サロンに限らず当社に依頼のある全てのクライアントが「光」が重要であることをよく理解されています。では、今回はプロの目線で美容サロンの光の役割について書いてみたいと思います。
美容サロンのオーナー様は他の業種のクライアントよりも光の重要性について熟知されていると感じます。髪の毛の色、カラーの色味、肌の色艶…これらは色のことではなく、光の問題なのです。同じ色であっても当てる光が電球色のように暖かい光なのか冷たい光なのかで全く違いますものね。
もうお気づきの通り空間デザインでも同じことが言えます。
INDEX
1.空間デザインの優れたプロは、光をうまく使う
2. 過去の光と今の光。かつてのパーマ屋さん~ここ10年
3. 定石を破ったヘアサロン、そしてスタンダートへ。
4. 空間デザインの解説と「光」のもつ力
空間デザインの優れたプロは、光をうまく使う
「素材」や「色」は空間デザインにおいて非常に重要です。特に素材は、予算さえあればぜひこだわっていただきたい要素です。本物の素材はその場で感じる空間の感覚が大きく変わってしまうのです。
しかしそれらは、光によってその良し悪しを大きく左右してしまいます。
本物の素材を使うと何よりも予算がより多く掛かってしまいます。
例えば床材は、大理石>タイル>フローリング>塩ビタイルと値段が全く違います。全て高い素材が使えればもちろんいいのですが普通そうはいきません。「価格は安くても良く見せるのがプロだろ!」という声が聞こえてきます。その通りです。…無理なこともありますよ(T . T)
そこで光です。優れたプロは光をうまく使うのです。それでは事例踏まえてご説明します。今回ご紹介するヘアサロンは、それまでのヘアサロンの空間づくりの定石を破ったサロン空間となりました。
サロンの光の歴史をおさらいしつつ、このサロンの特異性、そしてこれからのサロンの光のあり方を解説します。
過去の光と今の光。かつてのパーマ屋さん~ここ20年
かつてのパーマ屋さんの空間
かつて「パーマ屋さん」と言われていた、今もシニア層が行きつけにしているような美容室を想像してください。壁も床も白っぽく、空間全体が昼白色の蛍光灯で照らされた、真っ白な空間ではないでしょうか。
蛍光灯の昼白色の光は例えるなら昼間の高い位置にある太陽の光です。なるべく影が無いように意図されています。それは肌や髪色、カラー材の色を判断しやすいように配慮した結果です。コンビニの店内のような光は機能的ですが、情緒は一切感じられません。裏事情を話すとこの頃のサロンは、かなり閉鎖的な業界で独立するときは美容室専門の内装会社に頼むしかない時代でしたので、割高で画一的なお店ばかりが多かったのです。
20年程前から変わったサロン空間
それが20年程前から変わり始めました。
美容業界につてのない筆者にも独立する若い美容師さんからの依頼が増えてきました。その頃よく言われた要望は「カフェみたいな美容室っぽくない店にして欲しい」でした。その頃流行り出したカフェは電球色で暖かいイメージでリラックスできるものでした。
それでも、ヘアサロンなので光だけはカラーが正しく見えるようにして欲しいと言われましたので、セット面の上に白っぽい昼白色を使い他の空間は電球色というスタイルが生まれそれが美容サロンのスタンダードとなっていったのです。
店内にお客様が一歩入ったとき、ずらりと並んだ各セット面の光は昼白色。これはヘアサロン空間においての定石ではありますが、テーマ性の強い飲食店のように隙の無い独特な世界観の空間づくりが難しいネックとなっていました。
定石を破ったヘアサロン、そしてスタンダートへ。
さて、私たちの手掛けたヘアサロンの事例に移りましょう。
こちらは、7、8年前にご依頼のあったお店です。(1店舗目からお付き合いし始めたクライアントのお店の5店舗目くらいだったでしょうか?これ以降快進撃を続け今では数百店舗を経営するまでに。)
この店舗では昼白色の光を店内では一切使っておりません。あくまでもお店の雰囲気を重視しています。重要な要素である素材にもこだわり壁面はブリックタイルにエイジングを施しています。それまでの白っぽい色合い光、素材感のあるサロンとはあきらかに一線を画したお店となっています。
この大まかな御要望はオーナーさんの発想によるものだったと記憶しています。私達も自由にデザインしているわけでなくあくまでもオーナーさんのやりたい構想を実現するパートナーなのです。しかし、このような方向性を示された時全く違和感無くわくわくしてデザインできたことを覚えています。
なぜなら私たちが多く手掛ける飲食店では普通のことだからです。
このお店のデザインパターンはその後のスピード多店舗展開のベースとなりました。壁は本物素材で費用をかけて作り込む、お客さんが見ている時間が長い正面だからです。床は安くてメンテナンスのいい塩ビ素材、照明は雰囲気の良い電球色。
この時代から、数枚の写真によって集客が大きく左右される時代になっていったのです。”映える時代“にこの内装、光が大きく効果を上げました。
今ではすっかりこのパターンが多くなりました。これからの光のデザインはますます多様性の時代に入ります。今まさに最新のLEDの進化が始まっており今までにない空間づくりができる可能性が広がっているのです。
空間デザインの解説と「光」のもつ力
空間デザインの解説
セット面での昼白色が無くなったことにより、照明の設計は全て電球色で設計することが可能になりました。電球色がなぜ雰囲気に関係するのか?それは元々キャンドルの光を元につくられ、陰影を生み出す光だからです。夜に灯るキャンドルの光はリラックス効果があり雰囲気づくりに欠かせません。
こちらの店舗内装はニューヨークブルックリンの街並みをイメージさせます。壁面の素材はブリックタイルを用い、左官によるエイジングを施しています。ブリックタイル風のビニールクロスもありますが、はやり写真からも伝わるエッジや質感は本物に勝るものはありません。その雰囲気をさらに際立たせるアンティーク風のブラケットライトはブルックリンの街角感にリアリティを添えます。
その一方で、掃除のしやすさと金額感から、床はウォールナットのフローリング風長尺塩ビシートです。お客様が長時間滞在するセット面の常に目に入る場所や、店内に入ったときの第一印象など、重要なポイントを抑えて本物素材を用いて素材にメリハリをつけるのがポイントです。
定石を破り全て電球色の照明にし、本物素材をポイントを抑えて使うことで隙の無い雰囲気づくりに成功しました。
「光」のもつ力
最も効果的にお店の雰囲気づくりに影響するのは光です。違いは何をどのように配灯するか、どのように照明を当てるか。それによりガラッと印象が変わります。
こちらの画像は全て同じ場所で照明の照らし方を変えたものです。
CASE1|光の当て方を全て均一にした場合。平坦で面白味にどこかかけます。
CASE2|重心を高く照らした場合。溌剌とした印象。
CASE3|重心を低く照らした場合。少しドラマチックで、ゆったりとした落ち着きを感じられます。
いかがでしょうか?同じ空間なのに全く違う印象です。
どのメーカーの照明器具でも価格に大きな違いはありません。価格に対しての雰囲気づくりの効果は大きく、空間デザインの4つの要素の中では最も「光」が効果的にお店の雰囲気をコントロールすることが可能です。今、時間に合わせて照度を変える機能もより高性能になっています。昼、夜と照明に変化をもたすこともお店の雰囲気づくりに効果的です。素材だけでなく、それを照らす光。このバランスがお店の世界観や特別感を生み出します。
協力:遠藤照明